あの時から――幸せなあの時間から、半年以上も経った。私の弱った身体が完全に
癒えるまでに、そのうちの半分以上の時間が必要だった。それもきっと、幸せな時間
に違いない。
 だって私は、私達が住む家を……ずっと憧れて止まなかった、家庭というものをも
つことができたのだから。
「おはよう」
「おはようございます」
 そんな朝の挨拶さえ、私にとっては、かけがえのないものだった。クリスさんの部屋で過
ごした数日は、今思い返せば、まるで子供の遊びのように幼く、単なるまねごとでしかない
とさえ思える。
 でも今は違う。あのアパートよりも狭く、家具も少ない。それでもやっと手に入れた、大
切な場所だ。
「今日が、結果の出る日だったね」
「……ええ」
 私は、まだぎこちなさの残る声で応える。日常会話程度なら、もうほとんど支障はない。
ただ……再び歌えるようになるかどうかは、今日の結果にかかっていると言えた。
 クリスさんの住む町――今は私の住む町でもある――の特別な病院に通うようになった
のは、つい最近のことだった。その結果が出るのが今日。直接病院に寄って、話を聞くこ
とになっている。
「……大丈夫。きっと大丈夫だから」
「はい。わかっています」
 もう、怖れもなにもなかった。例え二度と歌えないと言われても、受け入れられる。それ
ほどのものを、私はもう、手に入れていた。
「じゃあ、朝ご飯にしましょう」
 あれから少しは、料理も上手になった。決まってクリスさんは美味しいって言ってくれる
けど、最初の頃のぎこちない笑顔は消え、今では心からそう言ってくれているのがわかる。
「じゃあ、お願いしていいかな」
「はい。これは、私のお仕事ですから」
 そう言えるということは、なんて素晴らしいんだろうか。こうした朝の幸福な時間は、夜
まで続き、また次の日まで続いていくのが、最近の日課でもあった。
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